仕事が終わっても、私の一日は終わらなかった。
子供たちの送り迎え、夕飯の買い物、そして家事。
時間に追われながら、ひとつずつこなしていく毎日。
そんなある日、元夫から頼まれていた煙草を買い忘れてしまった。
そんな日の出来事です。
煙草を買い忘れただけなのに
仕事中、元夫からLINEが届いた。
「煙草を買って帰って」
その日の私は、仕事が終わってからも、やることが山ほどあった。
急いで帰宅し、長女を習い事へ連れて行く。
そのあと、次女を保育園に迎えに行き、再び長女の習い事へ。
長女を迎えに行った帰りには、スーパーに寄って夕飯の買い物をした。
子供たちを連れて、あちこちを移動する。
時間を気にしながら、夕飯のことも考える。
一日が終わる頃には、いつも余裕なんてなかった。
そして、その日も慌ただしく家に戻った。
夕飯の支度をしなければ。
子供たちのお腹も空いている。
買ってきた食材を取り出し、夕飯の準備を始めた。
そのとき、ふと気づいた。
煙草を買い忘れた。
仕事帰りに買ってくるよう頼まれていたのに、すっかり頭から抜け落ちていた。
しまった、と思った。
けれど、わざと忘れたわけではない。
仕事を終えてから、子供たちの送り迎えをして、スーパーで買い物をして。
あまりにも慌ただしく、一日をこなすことだけで精いっぱいだった。
元夫は家にいた。
私が仕事をしている間も、子供たちを迎えに行っている間も、家で過ごしていた。
それでも、煙草を買い忘れたことを伝えると、元夫は怒り出した。
「今すぐ買ってこい!」
罵倒され、私は夕飯の支度を中断した。
子供たちを家に残していくわけにもいかない。
結局、子供たちを連れて、もう一度煙草を買いに出かけた。
やっと家に帰ってきたのに。
これから夕飯を作って、子供たちに食べさせなければならないのに。
それでも、元夫の言うとおりにするしかなかった。
ようやく煙草を買って戻ると、今度は夕飯のことで怒られた。
「夕飯が遅い!」
そして、さらに言われた。
「家事や育児が普通にできないなら、働くのをやめろ!」
私は、生活していくためにパートに出ていた。
働かなければ、家計が苦しかった。
だから仕事をしていた。
仕事が終われば、子供たちの送り迎えをして、買い物をして、夕飯を作る。
それが私の日常だった。
それなのに、働けば家事や育児ができないと責められる。
家事や育児を優先すれば、生活費はどうするのだろう。
生活していくために働いているのに、その仕事をやめろと言われる。
私は、どうすればよかったのだろう。
元夫は家にいて、煙草を買いに行くこともできたはずだった。
夕飯の支度を手伝うことだって、できたはずだった。
けれど、煙草を買い忘れた私が責められ、夕飯が遅くなった私が責められた。
その日の私は、煙草をひと箱買い忘れただけだった。
でも、その小さな失敗ひとつで、それまで必死にこなしてきた仕事も、子育ても、家事も、すべて否定されたような気がした。
あの頃の私は、毎日を回すことに必死だった。
仕事をして、子供たちを育てて、家族の食事を用意する。
どれも、私にとっては必要なことだった。
それでも、何かひとつできなければ、すべて私が悪いことになる。
今、振り返ると思う。
私は、何もしていなかったわけではない。
むしろ、毎日いくつものことを抱えて、必死に動いていた。
それなのに、できなかったことばかりを責められていた。
あの日、私が忘れたのは煙草だった。
けれど、本当に忘れてしまいたかったのは、あんなふうに何もかも自分の責任にされていた日々だったのかもしれない。
